標本化定理と折り返しひずみ

サンプリング

アナログ量をデジタルシステムで処理・伝送するためには、アナログ信号を離散的な数値の列に変換する必要があります。

連続したアナログ信号から一定の時間間隔で信号を取り出すことをサンプリング(標本化)といいます。この一定の時間間隔がサンプリング周期で、その逆数がサンプリング周波数です。サンプリングを行うと、時間軸について離散化されます。

下の図は、10Hzの正弦波を120Hzでサンプリングしたものです。

サンプリング

アナログ信号をデジタル信号として扱うためには、取り出した値(上の図の場合は縦軸の値)も離散化する必要があります。この記事では触れませんが、値の離散化のことを量子化といいます。

標本化定理

アナログ信号をデジタル信号に変換するとき、元の信号に含まれる周波数成分の2倍よりも高い周波数でサンプリング(標本化)すれば、元の信号を再現することができます。

サンプリング対象の信号に含まれる最速の周波数成分に対して、十分な速度でサンプリングしなければ、元の信号を正確に表現できなくなります。サンプリング周波数が不十分なときは信号を復元できず、歪みが発生します。

下の図は、10Hzの正弦波を2つのサンプリング周波数でサンプリングして、サンプリング後の点をつないだものです。サンプリング周波数は、青色は120Hz、オレンジ色は12Hzです。

120Hzでサンプリングした青色の波形は10Hzの正弦波とわかりますが、12Hzでサンプリングしたオレンジ色の波形は元の正弦波とは異なる波形になっています。

サンプリング周波数不足の場合

ナイキスト周波数

サンプリング周波数の1/2の周波数をナイキスト周波数といいます。

サンプリング周波数が120Hzなら、ナイキスト周波数は60Hzとなります。このとき、サンプリングしたい信号の周波数が60Hzよりも低ければ、正確に元の信号をサンプリングすることができます。

ナイキスト周波数

60Hzよりも高い成分が含まれていた場合、折り返しひずみ(エイリアス)となり、元の信号を正確に表せません。

折り返しひずみ (エイリアシング)

サンプリング前の信号にナイキスト周波数よりも高い周波数成分が含まれていた場合、折り返しひずみ(エイリアシング)が発生します。

ナイキスト周波数よりも周波数が高い部分は、ナイキスト周波数を対称軸として低周波側に折り返されて現れます。折り返しひずみが発生すると元の信号に存在しない信号成分が現れるため、元の信号を正確に復元できなくなります。

例えば、ナイキスト周波数が60Hzで、サンプリング前の信号に80Hzの成分が含まれていた場合を考えます。この80Hzの成分はナイキスト周波数で折り返され、サンプリング後には40Hzの信号に見えます。折り返し周波数の計算式は、60-(80-60)=40[Hz]。

サンプリング周波数を120Hzとして、何種類かの信号のサンプリングの例を挙げてみます。

10Hzの場合

10Hzはナイキスト周波数よりも小さいので、正常にサンプリングできます。

10Hz(時間領域)
10Hz(周波数領域)

80Hzの場合

80Hzはナイキスト周波数よりも大きいため、ナイキスト周波数(60Hz)で折り返して40Hzになってしまいます。

薄い水色の線はサンプリング前の信号で80Hzですが、青色のサンプリング後の信号は40Hzになります。

80Hz(時間領域)
80Hz(周波数領域)

10Hzと80Hzの合成信号の場合

10Hzの成分は正常にサンプリングできますが、80Hzの成分は折り返して40Hzになります。そのため、サンプリング後の波形は、10Hzと40Hzが合成された信号になります。

10Hzと80Hzの合成(時間領域)
10Hzと80Hzの合成(周波数領域)

40Hzと80Hzの合成信号の場合

理論上40Hzの成分は正常にサンプリングできますが、80Hzの成分は折り返して40Hzになります。サンプリング後は、元の40Hzと折り返しの40Hzが足し合わされてしまい、正確な信号を得ることはできません。

下の図の場合は、元の40Hzと折り返しの40Hzが合成され、振幅が0になってしまいました。(サンプリング後の波形は元の40Hzと80Hzの位相関係によって変化します。)

40Hzと80Hzの合成(時間領域)
40Hzと80Hzの合成(周波数領域)

アンチエイリアシングフィルタ

サンプリングする前に折り返しひずみの原因となる帯域をカットするためのローパスフィルタのことを、アンチエイリアシングフィルタといいます。

フィルタは、LCフィルタなどのアナログフィルタでも、FIRフィルタなどのデジタルフィルタでも大丈夫です。

LCフィルタ
LCフィルタ
FIRフィルタ

FIRフィルタ

合成信号の考察

先ほどの10Hzと80Hzの合成信号の場合、サンプリング後に折り返しの40Hzをカットするローパスフィルタをかけると10Hzの信号を分離することができます。

一方で、40Hzと80Hzの合成信号の場合は、サンプリング後に元の波形と折り返しによる波形を区別できないので、折り返し成分だけを分離することができません。そのため、サンプリング前に80Hzの信号を除去するアンチエイリアシングフィルタが必要になります。

まとめ

  • サンプリング
    アナログ量をデジタルで扱うために、アナログ信号から一定の時間間隔で信号を取り出して離散的な数値の列に変換すること
  • サンプリング周波数
    サンプリングの時間間隔がサンプリング周期、その逆数がサンプリング周波数
  • 標本化定理
    元の信号に含まれる周波数成分の2倍よりも高い周波数でサンプリング(標本化)すれば、元の信号を再現することができる
  • ナイキスト周波数
    サンプリング周波数の1/2の周波数がナイキスト周波数。サンプリング周波数120Hzでサンプリングするときのナイキスト周波数は60Hz
  • 折り返しひずみ
    サンプリング前の信号にナイキスト周波数よりも高い周波数成分が含まれていた場合、ナイキスト周波数を対称軸とした折り返しひずみ(エイリアシング)が発生する
  • アンチエイリアシングフィルタ
    折り返しひずみの原因となる成分を除去するためのローパスフィルタ。サンプリング後は元信号と折り返しによる信号が合成されてしまうため、サンプリング前にアンチエイリアシングフィルタをかける必要がある

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