EMC対策を考慮した設計をしておくと、検証時の手戻りが少なくなります。
また、設計後の対策においては、原因を素早く特定し、発生原因に応じた適切な対策を施す必要があります。
設計時・評価時のEMC対策の参考になるようにEMC対策の基本的な考え方をまとめました。
目次
対策の基本
- シールディング
シールド材などを使用してノイズを遮断する - グランディング
筐体、回路などのグランド(GND)を強化する - フィルタリング
LCフィルタなど、主にローパスフィルタでノイズを低減する - 配線
基板上の配線、ケーブル配線を最適化する - 配置
基板上の部品配置を考慮することでノイズを低減する
シールディング
シールディングは、空間を伝搬するノイズの対策に有効です。基板、ケーブル、機器全体を、金属筐体などで遮蔽します。
筐体シールドの際は下記のようなポイントに注意します。
- ネジに導電性をもたせる
- 折り返し面に導電性をもたせる
- 折り返し面の幅を広くする
- ネジの間隔はλ/4未満にする(λ/8未満を推奨)
- 筐体の穴は小さくする(ただし放熱の考慮は必要)
- ケーブルの取り付け部がピッグテイルにならないように注意する
グランディング
グランディングは、電位の基準であるGNDを用いたノイズ対策です。
基本的な考え方は、『GNDを広くして電位を安定させることで、コモンモードノイズの発生を抑える』ことです。
GNDビア
インピーダンスが高くなると基板内のGND間に電位差ができます。インピーダンスを下げるためにGNDビアを追加します。
- GNDビアが多い → インピーダンスが低くなる
- GNDビアが少ない → インピーダンスが高くなる
インピーダンスが高くなると、特に静電気試験などのイミュニティに影響が現れるようです。
GNDガード
信号パターンをガードするように、信号配線の両側に沿うようにグランドパターンを配置します。クロックのような高速信号からの不要輻射やクロストークを軽減させます。
ポイントは次のとおり。
- ガードリングにGNDビアを多く配置
→ ベタGNDとガードリングの電位差をなくし、ガードリングからの二次放射を抑える - ガードリングの両端にGNDビアを配置
→ ガードリングがアンテナになることを防ぐ
フィルタリング
EMC対策ではローパスフィルタが一般的に使われます。コモンモードノイズ除去に使われるコモンモードフィルタについて説明します。
コモンモードフィルタ
コモンモードフィルタはコモンモード電流を減衰させますが、ディファレンシャルモード電流は(理想的には)減衰させません。
信号がディファレンシャルモードであることを利用して、信号に影響を与えずにコモンモードノイズを除去するために使われます。電源ラインには電流定格が大きいものが使われます。
コモンモード電流に対する動作
- コモンモード電流が発生
- 同じ方向の磁束が発生
- インダクタンスが増加
- コモンモード電流が減衰
ノーマルモード電流に対する動作
- ノーマルモード電流が発生
- 逆方向の磁束が発生
- 磁束が打ち消し合う (=インダクタにならない)
- ノーマルモード電流は減衰しない
ノーマルモードの減衰が0となるのは理想的な場合です。
チョークコイルの巻き方(1) 【分割巻き】
2本の電線を分割して巻く方法です。
ディファレンシャルモードインピーダンスが比較的高いため、信号ラインには向きません。
耐電圧や放熱で有利なこと、低周波数からコモンモードインピーダンスが比較的高いことから、ディファレンシャルモードインピーダンスが問題とならないDC電源ラインに適しています。
チョークコイルの巻き方(2) 【バイファイラ巻】
2本の電線を揃えて巻く方法です。
ディファレンシャルモードインピーダンスが小さいため、信号ラインにも適しています。
コンデンサ(Xコンデンサ, Yコンデンサ)
ノイズ対策としてのコンデンサは電源部分でもよく使われます。
ライン間に追加するものがXコンデンサで、ディファレンシャルモードノイズ除去の効果があります。
ラインとGNDの間に追加するのはYコンデンサで、コモンモードノイズに対して効果があります。
種類 | 挿入位置 | モード | 容量 | 周波数 |
---|---|---|---|---|
Xコンデンサ | ライン間 | ディファレンシャルモード | 1 μF | 0.1〜1 MHz |
Yコンデンサ | ライン−GND間 | コモンモード | 1000 pF | 10〜50 MHz |
これらを併用すると、ディファレンシャルモードとコモンモード両方に効くフィルタを構成できます。
配線
インピーダンス整合
「配線幅の違い」「配線層の違い」などによって特性インピーダンスが変化する点で信号が反射して歪みます。信号が歪んで現れた高周波成分がノイズとなります。
ビアでも反射が発生するので、むやみに配線層を変えないほうが信号品質は良くなります。
反射波の大きさは次の式で表される反射係数で決まります。
\[\Gamma = \frac{Z_S – Z_0}{Z_S + Z_0}\]
特性インピーダンスが等しい線路間の場合、反射係数は0になり反射は起こりません。(インピーダンスを合わせることを整合またはマッチングといいます。)
リターンパスの確保
リーターンパスは、電流が負荷から戻ってくる経路のことです。次の特徴があります。
- 直流は最短経路で戻る
- 高周波電流は信号電流に沿う経路でGNDプレーンを戻る
高周波電流では電流のループがアンテナとなってノイズを放射します。そのため、ノイズを抑制には電流ループを小さくすることが有効です。
リターン電流が理想的に流れる経路を通れない場合、電流の帰り道が遠回りになり、ループが大きくなります。
電源プレーンの電圧が異なる電流ベタ間で発生することが多いです。ほかにも、GNDプレーンの銅箔を抜いていたり、基板にスリットが入っていたりする場合も電流経路が変わってしまいます。
配置
いろいろな部品に対して考慮する点がありますが、ここではコンデンサと抵抗の配置について説明します。
コンデンサ
バイパスコンデンサも含むノイズ対策用のコンデンサは、ノイズ源の近くに配置します。
コンデンサまでの配線が長くなると寄生インダクタンスが大きくなります。寄生インダクタンスが大きくなると、特に高周波領域でコンデンサの効果が小さくなってしまいます。
次の1つ目の図は理想的な配置、2つ目の図は寄生インダクタンスが大きくなる配置です。
抵抗
ダンピング抵抗は、出力インピーダンス\(R_{out}\)と特性インピーダンス\(Z_0\)の不整合を解消するために使われます。
次の図のように \(Z_0 = R_{out}\) となるのが理想ですが、実際は \(R_{out} < Z_0\) となることがほとんどです。
理由は、挟ピッチのICやコネクタのランド付近では、配線幅を細くせざるを得ないためです。導体厚、誘電体厚や比誘電率が変わらずに配線幅が狭くなると\(Z_0\)が大きくなります。
この差を解消するためにダンピング抵抗を使います。ダンピング抵抗値を\(R_S\)としたときに、 \((R_{out}+R_S)\) が特性インピーダンス\(Z_0\)に等しくなるような抵抗値にすると信号の反射を抑えることができます。
ダンピング抵抗は出力側端子の近くに配置します。
まとめ
設計時も評価時も、以下の基本的な観点からEMC対策を検討するとよいです。
- シールディング
- グランディング
- フィルタリング
- 配線
- 配置
EMC改善は、次の順序で進めていきます。
- ノイズ源を特定する
- 発生要因を解明する
- 適切な処置をする(原理原則に従った対応が必要)
参考文献
大住秀夫氏 『はじめてのEMC対策の対策』
月間EMC 2016年12月号 (No.344)
科学情報出版
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