LED(発光ダイオード)の電流制限抵抗値の求め方は過去に書いていましたが、複数個のLEDを接続した場合のLTspiceシミュレーションも追加して書き直しました。
ダイオードのI-V特性のシミュレーション方法も書いてあります。なお、SPICEのダイオードモデルの定義方法に関する説明はありません。
LEDの電流制限については以前にまとめました。もしよければ、合わせて読んでみてください。
LED(発光ダイオード)の電流制限についてまとめています。LEDの特徴や電流制限抵抗の計算方法を解説しています。
ちょっと長いので、 目次から 気になるところへ飛んでご覧ください。
目次
- 1. 基本回路
- 1-1. 計算方法
- 1-2. 定数を代入して計算してみる
- 1-3. シミュレーション
- 1-4. 任意のVFでシミュレーション
- 2. LED直列接続
- 2-1. 計算方法
- 2-2. シミュレーション
- 2-3. メリット・デメリット
- 3. LED並列接続
- 3-1. 計算方法
- 3-2. シミュレーション
- 3-3. メリット・デメリット
- 4. (Appendix) ダイオードI-V特性シミュレーション
- 4-1. LTspice回路図
- 4-2. シミュレーション条件
- 5. LTspice回路図ファイル
基本回路
直流電源1つでLEDを1つを駆動する回路です。電流制限抵抗が1つあります。
回路に分岐がないので、LEDに流れる電流=抵抗に流れる電流になります。
抵抗にかかる電圧と流れる電流を使って、オームの法則で抵抗値を決められます。
- 決まっているもの・・・電源電圧、LEDの順方向電圧降下(VF)
- 自分で決めるもの・・・LEDに流す電流
- 最終的に求めるもの・・・電流制限抵抗の抵抗値、ついでに消費電力
- 途中で求まるもの・・・抵抗にかかる電圧
LEDではVFの電圧降下があります。
余談ですが、LEDを含むダイオードはオームの法則に従いません。後述のダイオードI-V特性のような関係になります。
計算方法
抵抗での電圧降下分とLEDでの電圧降下分の合計が電源電圧と等しくなるため、引き算で抵抗での電圧降下(抵抗にかかる電圧)が求めることができます。
\[V_R = V_{IN} – V_F\]
LEDに流したい電流を\(I_{LED}\)とすると、抵抗に流れる電流も\(I_{LED}\)になります。
抵抗に\(V_R\)の電圧がかかっているところに流れている電流が\(I_{LED}\)という状態になります。
このときの抵抗値をオームの法則で求めます。
\[R = \frac{V_R}{I_{LED}}\]
2つの式をまとめた次の式で覚えておくと使いやすいと思います。
\[R = \frac{V_{IN} – V_F}{I_{LED}}\]
また、問題になることは少ないですが、抵抗の定格消費電力を超えていないか確認するために、抵抗での消費電力を求めることができます。
\[P = V_R \times I_{LED}\]
定数を代入して計算してみる
実際に数値を代入して計算してみましょう。
VINを12 Vとして、LEDに流す電流を10 mAにするための抵抗値を求めてみます。
今回は、LEDのVFは3.4 Vと仮定しておきます。
(次節のシミュレーションで使うLEDに合わせました。)
先ほどの式より、
\[R = \frac{12 – 3.4}{0.01} = 860\]
10 mAの電流を流すためには、860 Ωの抵抗を使うとよいようです。
シミュレーション
回路シミュレータのLTspiceを使って、先ほどの計算結果とシミュレーションが一致するか確認してみます。
はじめに、LTspiceで回路図を作成します。
DC電源電圧は12 V、抵抗値は860 Ω 。LEDのところはまずは普通のダイオードのシンボルで。ダイオードの選択は次の項で解説します。
シンボルを置いただけの段階ではデフォルトのダイオードとなっています。特性もデフォルト値。
デフォルト値については下記の参考サイトなどを参照してください。
https://techweb.rohm.co.jp/knowledge/simulation/s-simulation/01-s-simulation/8296
ダイオード(LED)選択の手順
LTspiceの回路図エディタ上で、ダイオードのシンボルを右クリックします。
すると、ダイオードのプロパティウィンドウが開きます。「Pick New Diode」ボタンをクリックします。
ダイオードを選択するウィンドウが開いて、パーツを選ぶことができます。「type」がLEDとなっているものがLEDです。数はあまり多くないです。
ここでは、(Typeでソートしたときに一番上にある)NichiaのNSCW100を選んでみました。 回路図エディタ上に型番が表示されます。
シミュレーション結果
この回路で1秒間のトランジェント解析を行いました。
シミュレーション結果は図のようになります。LEDを流れる電流は緑色の線(右側の縦軸)です。計算通り10 mAの電流が流れています。
任意のVFでシミュレーション
LED選択画面に VFはない
リストから任意のLEDを選ぶのですが、ダイオードモデルにVFはないため、 VFを基準に選ぶことはできません。
リスト中のLEDのVFを知るためには、部品メーカー提供のデータシートを参照するのがよいと思います。(Googleで部品名を検索!)
または、一旦シミュレーションを実行して、 シミュレーション結果 からLEDにかかる電圧を確認してもよいです。
ちなみに計算で求めるには、ショックレーのダイオード方程式
\[I_f = I_s \{exp(\frac{V_f}{V_t}-1\}\]
をVfについて解けばわかります。やります?
I-V特性を求めるシミュレーションについては、ダイオードI-V特性シミュレーションの章で説明しています。
シミュレーション方法
1つのVFについて、シミュレーションができました。次にVFを任意の値にしてシミュレーションする方法を書きます。
といっても、ダイオードモデルに手を加えるのではなく、下の図のように電圧源を使う方法です。.stepコマンドを使うと複数のVFで一度にシミュレーションすることもできます。
ダイオードで電圧降下する(電圧が下がる)ということは、マイナス電圧を持つ電源をつなぐことを意味します。(キルヒホッフの第二法則)
回路の意味が変わらないといえるので、ダイオードを電圧源に置き換えて、その電源電圧を自由に設定することで任意のVFを表現します。
計算式
直流電源に変更した回路図からLEDに流れる電流を求める計算式は、
\[I = \frac{V_{IN} – V_{2}}{R}\]
となります。
式を変形すると、流したい電流値から抵抗値を求めることができます。
\[R = \frac{V_{IN} – V_{2}}{I}\]
計算で確認
回路の条件をさきほどと少し条件を変えて、抵抗値を計算で求めて、シミュレーションで電流値を確認してみます。
- Vin = 5 V
- VF = V2 = 2.8 V
として、LEDに20 mAの電流を流すための抵抗を計算してみます。
抵抗にかかる電圧は、
\[V_R = V_{IN} – V_2 = 5 – 2.8 = 2.2 (V)\]
\(V_R\)と抵抗に流れる電流\(I_R\)(=LEDに流れる電流)から抵抗値を求めます。オームの法則から、
\[R = \frac{V_R}{I_R} = \frac{2.2}{0.02} = 110 (\Omega)\]
以上より、 電流制限抵抗 が110 Ωのとき、LEDには20 mAの電流が流れます。
シミュレーションで確認
回路全体の電源(V1)をDC 5 Vにします。
LED(ダイオード)を電圧源(V2)に置き換えて、電圧をVF相当のDC 2.8 Vとします。
DC電源は2つともGND側が-(マイナス)なるよう配置します。
抵抗値は計算で求めた110 Ωとして、LEDに流れる電流をシミュレーションしてみます。
緑色の線が抵抗を流れる電流です。計算どおり20 mAとなっていることを確認できました。
LED直列接続
計算方法
途中で枝分かれがないので「抵抗に流れる電流=LEDに流れる電流」になります。
抵抗にかかる電圧は、「電源電圧-(各LEDのVFの和)」です。
これらの条件から、抵抗にかかる電圧と抵抗に流す電流がわかり、オームの法則で制限抵抗の抵抗値を求めることができます。
\[R_2 = \frac{V_2 – (V_{F(D2)} – V_{F(D3)})}{I_{LED}}\]
シミュレーション
回路図と結果です。20 mAを流すための抵抗値で、計算通り電流値となっています。
メリット・デメリット
この構成のメリットとデメリットです。
- メリット
- 各LEDの明るさを(簡単に)揃えられる(同じ型番のLEDを使用していれば)
抵抗が1つでよいため、抵抗値のばらつきの影響を受けずにすべてのLEDに同じ大きさの電流が流れるため。
- 各LEDの明るさを(簡単に)揃えられる(同じ型番のLEDを使用していれば)
- デメリット
- 高めの電源電圧が必要
LED部にかかる電圧の合計は各LEDのVFの和になるので、電源電圧はそれ以上必要になるから。
- 高めの電源電圧が必要
LED並列接続
計算方法
各ノード(RとLEDの組)には電源電圧と同じ電圧がかかるので、ノードごとに基本回路と同じ計算方法で抵抗値を求めることができます。
\[R_3 = \frac{V_3 – V_{F(D4)}}{I_{D4}}\] \[R_4 = \frac{V_3 – V_{F(D5)}}{I_{D5}}\]
上側の経路の電流値と、下側の経路の電流値を足すと、電源から流れ出す電流値が求まります。
\[I_{LED} = \frac{V_3 – V_{F(D4)}}{R_3} + \frac{V_3 – V_{F(D5)}}{R_4}\]
シミュレーション
回路図とシミュレーション結果です。結果は各LEDに流れる電流を表示しています。抵抗値を840 Ωにしてしまったので基本回路の10 mAよりも大きめの電流が流れています。
メリット・デメリット
この構成のメリットとデメリットです。
- メリット
- LEDのVF以上の電源電圧があればよい。赤や緑の場合はVF=1.8~2.2V程度なので、電源電圧も低めでよい。
- LEDごとに電流量(=明るさ)を調整できる
- スイッチやマイコンを使えば、LEDごとにON/OFFができる
- デメリット
- 抵抗値のばらつきにより電流値(=明るさ)がばらつく場合がある。(誤差の範囲なことが多い)
- 部品点数が増える
(Appendix) ダイオードI-V特性シミュレーション
この特性をシミュレーションする方法を簡単に書き残しておきます。
LTspice回路図
電圧源とダイオードを接続して回路図を作成します。
シミュレーション条件
シミュレーションは、DC電源電圧を変化させたときにダイオードに流れる電流の変化を確認します。
DC sweepを使います。
Name of 1st source to sweep は電圧を変化させたい電圧源を指定します。
Type of sweep, Start value, Stop value, Incrementは希望の条件をセットします。Incrementは空白でもOKです。
シミュレーション完了後、ダイオードの電流をプロットすると、先ほどのグラフが表示されます。
LTspice回路図ファイル
シミュレーションで使用した回路図は以下にあります。自由にダウンロードして使ってください。
https://github.com/tetsufuku81/ltspice_circuit/tree/master/20200319_led-resistor-sim
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